北の海から、水産業の未来を描く
― 北海道大学大学院在学中に株式会社AQSim(アクシム)を創業した倉橋さんの挑戦 ―
大阪出身の倉橋さんは、現在北海道大学水産学部の大学院修士2年に在学しながら、陸上養殖を営む株式会社AQSim(アクシム)を創業した若手起業家だ。
高校時代、特別に水産分野へ強い関心があったわけではなく、北海道大学へは総合(理系)として進学した。2年次の学部選択では農学部を第一志望としたものの、結果的に進学したのが水産学部だった。
「このままでいいのか」という問いから始まった
水産学部2年次。札幌での座学中心の生活を振り返り、倉橋さんはこう語る。
「2年は、めっちゃ勉強しました」
1年次はコロナ禍の影響もあり、思うように学びに向き合えず、どこか気持ちが乗らない日々が続いていた。
「このままでは、何のために大学に来たのかわからない」
そう感じたことが、意識を切り替えるきっかけだった。
勉強するうちに2年生の夏頃には、前のめりになってきていました。
自分の中で、いくつか解きたい疑問が生まれたからです。
それは、日本の水産業が衰退している一方で、世界では日本の食文化が高く評価されているというギャップはなぜ生まれるのか?という疑問。 大学の先生たちも、漁獲量減少の原因についてさまざまな視点から語っていて正解がわからず、自分も現場に行かなければという思いをかき立てられた。
とにかく現場に行きたいという思いから、気仙沼にインターンへ
3年次になると、実習やインターンを通じて現場(漁場)に足を運ぶ機会が増えた。
宮城県で参加したインターンでは、水産加工機械を開発する現場に入った。その企業が牡蠣の洗浄機械を開発したいというリクエストを受けて水産工学の技術に触れた。
その中で強く感じたのが、「漁師」と「工学系技術者」の間にあるコミュニケーションの難しさだった。 現場には確かな課題があり、技術は存在する。しかし、それらがうまく噛み合っていない――。
倉橋さんは、水産業の課題は単なる技術不足ではなく、「つなぐ仕組み」が不足しているのではないかと考えるようになる。
ビジネスコンテストでの出会いが転機に
3年生の秋、倉橋さんはビジネスコンテストに挑戦する。
そこで出会ったのが、高橋教授だった。
高橋教授から提案されたのは、養殖魚の成長や行動をシミュレーションする技術の活用だった。 この出会いをきっかけに、倉橋さんの関心は研究から「事業」へと一気にシフトしていく。
学生起業という決断
学部4年の9月、倉橋さんは株式会社AQSimを設立。
100%自己資金、文字通りの学生起業だった。
当初は、養殖シミュレーションソフトの販売を構想していたものの、そう簡単に養殖業者から魚のデータを試験的に取得できないという壁に直面する。
「理論だけでは、現場は動かない」 そう実感した倉橋さんは、さらに一歩踏み込む決断をする。
陸上養殖への挑戦
大学院修士1年の9月。大きな出会いでビジネスが動き出す。
水産学部出身で白老町で働く先輩が、白老町の町おこしでホッケの陸上養殖に取り組むという。そこで、AQSimのシミュレーションソフトを提案したところ、採択いただく。
もう一つは、たまたまテニス好きの友人から紹介された不動産業の一環で、陸上養殖に取り組んでいた方との出会い。
地域に根ざす成功事例をつくる
陸上養殖の委託を受け、事業がスタート大手商社や水産企業がサーモン養殖に取り組む中で、倉橋さんが見据えたのは、地域の中小事業者でも取り組める陸上養殖モデルだった。
現在、星カレイとホッケでの成功事例が見え始め、次年度からの販売開始を予定している。
一般的な卸への流通以外に飲食店への直販をメインに考えている。
ー「もしかしたら日本の美味しい魚が食べられなくなるかも」と言われているが、魚大好きな個人として、水産業に挑戦する倉橋さんを前にして、なんだか安堵した。研究、現場、そして起業を行き来しながら、倉橋さんは北の海から新しい水産業の未来を描いている。
******
編集後記
学生で実際に起業する際、必ず、キーマンに出会っているケースが多い。
そして、その出会いのレバレッジが大きい。その出会いは、完全な運のように見えて、倉橋くんもそうだったけど、やりたいことを周りの人に話しまくることで、呼び寄せられるのだなあと思いました。
おまけ
一緒にインタビューをしたはこだて未来大学の丸山千寿さんとお昼ご飯を食べた回転寿司「函太郎」の大将に思わず、「星ガレイって知ってますか?」と星ガレイを売り込もうとした私。



